前回とは違い、今回はネタバレしまくりの感想です。本日千秋楽ということで…いいよね?
本当に今年最後の珠玉の作品だなあと思えるくらい、1回観ただけで「これは心に残るなあ」と思える作品でした。指田先生(うちでは既にさっしーと言われていますw)、これから期待大!です。
淡々とした世界の中の情念の強さを感じる作品
このお話、非常に世界は淡々としていると思います。
お話の舞台は別荘があるくらいの郊外ですし、清彦(瀬央ゆりあさん)が龍の宮から帰ってからの世界も決してみんな幸せそうには見えません。
世界が演者を包むことはなく、本当にそこに在るくらいのものなのですが、だからこそそれぞれの人が抱える情念みたいなものがとても浮き上がってきて「リアル」に感じられます。
特に清彦と玉姫(有沙瞳さん)が対峙するシーンは多いですが、音楽が流れることはそう多くなく(流れても非常に静かなもので)静謐さがでています。
うまく言えないのですが、音楽で感情を引っ張るのではなく、お芝居で感情を引っ張っていく(それは演者も観客も)ように感じられました。
清彦と玉姫の感情は非常に複雑で、やっぱり個人的に比較というか並べて語りたくなるのが「春の雪」なのですが、あちらは清様の心理が複雑すぎて「一体なにを考えているんだコイツは」になっていましたが、こちらの清様(笑)は非常に素直。逆に玉姫の方が複雑な心理を持つ(当然ですけど)キャラクターになっており、男女の複雑さが逆転している印象がありますね。
両作品とも非常に人の情念を感じさせる、演者としては大変だけどきっとやりがいがあるキャラクターになっているのも共通しているかと。
本当に、せおさんとくらっち(有沙瞳さん)の演技が素晴らしくて。他の皆さんも素晴らしいんですけど、この二人の情念が強くないと成立しないお話だと思っているので…。
清彦は1幕と2幕で人が変わったように感情の出し方が変わっていて、それもすごいなと思います。玉姫も瞬間瞬間で声も顔も変わるから…。
山彦というストーリーテラーのような存在
この作品で切っても切り離せないのが「山彦(天華えまさん)」でしょう。
清彦と同門…とでもいうのかな、私こういうの学がなくてわからないのですが、同じスポンサーの元で書生をさせてもらっています。
書生4人組の中では一番粗野なタイプでお気楽な感じ。ですが、清彦が肝試しのために夜叉ヶ池に行くことを頑なに止める、清彦が行方不明になった時に「あいつはすぐには戻ってこない」と言うなど、1幕から「何か知っているなコイツ!」と思わせる、謎をばらまくキャラクターでもあり、お話の展開を持っていくストーリーテラー的な役割も持っています。
そして2幕で明かされる…のか?な山彦の謎。
これはどうなんでしょうね…私としては山彦は清彦のおじいちゃん説を推したいところではあります。
っていうあたりからおじいちゃんなのかな?とも思うのですが(あと名前に「彦」が入っているのも共通点っちゃ共通点…苦しいかなあ)、それかおじいちゃんと知り合いだった人?それにしては年が違いすぎる…。
ままま、それはともかく、山彦の存在はこのお話の核であることは間違いなく、それでいて清彦を見守る存在であることも間違いなく。
自分の肉体がなくなっても、その存在を保って清彦の前に現れるなんて泣けますよね…。
しかしぴーすけくん(天華えまさん)がこんなに素晴らしいとは。これもナメてたわけではないんですけど、どうしても本公演では最近大きな役をもらってはおらず…なので今回「歌こんだけ歌えるんや!」とか色々驚かせていただきました。
人が好きなあやかし?
あとこの作品で自分が引っかかったのは「笹丸(澄華あまねさん)」と「伊吹(紅咲梨乃さん)」の存在です。
この二人は龍の宮に来た人間(清彦のご先祖様)を何度か見ているのでしょうが、どうして人が好きといいますか「ここに居てはいけない」と助言しに来てくれるのかな~と。
もちろん他のみんなは龍神様の命令だからってことでやっているのだとは思いますが、この二人は何がきっかけで「それはよくないことだ」と思ったのか興味があります。
伊吹については玉姫の側仕えなので彼女の苦しみや葛藤を感じ取っているのかもしれません。笹丸は弟ではあるものの…まだ新人?ぽいしなあ。彼だけ衣装が真っ白で、あんまり海産物っぽくないのも気になるところなんですよね。どちらかと言えば天狗っぽい衣装じゃないですか?
このあたりは好きに解釈してね~系なんだと思いますが、山彦がなんか吹き込んでたら面白いな~なんて思ったり(笑)。
情念としては兄弟も強いんですよね
わすれちゃならんのが龍神兄弟。
なにげに龍神様も非常に情念が強い描き方がされていて面白いです。
非常にオタク的な見方をしてしまえば「異種族間恋愛って萌えるよね!」なんですけども。あ、でも玉姫も既に龍だから清彦とも異種族なんだな…。
龍神様も憐れみから愛情に変化して、さらに執着に変化…と非常に神様ながら人間らしい感情を持っていて好感度は高いです。玉姫めっちゃ大事にしているのがわかりますし。
だからこそ清彦のことが嫌いだと思いますし、腹立ったやろな~~と思いながら観てましたw
てんてん(天寿光希さん)は流石ですね。メイクもオペラから見たら「!?」ってなるくらい個性的なんですけど、それがきちんとお顔にハマってて。美人ってつよい。
そしてその弟さんを演じるのが天飛華音くん。この子もね~クセありますよね~!!(役がね)
最初はかなり良識的なこと言ってて「おっ良識枠か?」と思っていたんですけど、だんだんとお話が進んでいくと「あっこれただのブラコンなだけや」になりました。
ブラコンで切り捨てるのはアレかもしれないのですが、龍神二人でうまいことやってきたところに元人間の玉姫が来てしまい、さらに兄はそっちに構いっぱなしで雨を調節するのもおろそかに…という形ですとちょっと思うところはありますよね。
でも「また二人でやっていきましょう!」みたいなのを偉い爽やかな顔で申し立てているものだからつい「ブラコンかな?」って思っちゃったんですよ…良識はあると思うというか、この子の方が「人とあやかし」をきっちりと区別していてその枠からはみ出ないようにしているんですよね。
それを踏み越えてしまった(トート様のようだ)お兄ちゃんの方はそれで身の破滅…はしていないけれど、大切なものを失ってしまったわけで。
ラストの余韻も大好きです
玉姫は結局清彦をかばうためその生命を投げ出しますが、そこからの展開も余韻があって大好きです。
龍神様のセリフもいいんですよね「あんなに幸せそうな顔をしておる~!」みたいなやつ。嫉妬バリバリの。
結局玉姫は龍になったとしても人間のままで、幸せに思うのは愛していた人の近くに居られることなんだなと。
どんな形であっても根本は変わらないのかもしれません。
あんなに怖い思いをしたのに忘れたくないという気持ちでずっと開けることが出来なかった箱。「私を忘れてください」という玉姫の言葉。
今も雨が降るたびに、清彦は玉姫のことを思い出しているのでしょう。
色々語りたいことはたくさんあるけれど、言葉にしようとすると本当に難しい、そんな心の柔らかい部分にぐっと入ってくる、そんな作品です。
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