本来は梅田芸術劇場で上演されるはずだった、宙組公演「ホテル スヴィッツラ ハウス」。
幸いにも5月5日に無観客のライブ配信が行われるということで、購入して拝見しました!
少々背景など難解な部分も感じられましたが、芸術を芯として生き抜こうとする人々の力強さは、現状置かれている芸術(舞台芸術)ともリンクする部分があり、非常に面白かったです。
また、この作品は真風涼帆さん・潤花さんのプレお披露目公演でもあります。
二人の並びや、新トップ娘役さんの潤花さんについて感じたこともあわせて書きました。
スパイ的な話……と思ったら、芸術の話だった
真風さんが演じる主人公ロベルトは、表向きはオランダの外交官ながら、裏では敵国(ロシア)のスパイを探し出す「スパキャッチャー」という任務を持っています。
上官の指令のもと、「ウィリアム・テル」というスパイを探すため、スイスのホテルを訪れるロベルトが、バレエの仕事をもらうためにパリからやってきた潤花さん演じるニーナと出会うところからお話がスタート。
母親がバレエ・リュスで踊っていたことからニーナと意気投合し、任務の合間の安らぎとなっていくが……という感じ。
スパイ面が強いのかなと思っていましたが、さすがは(植田)景子先生。
「芸術を途絶えさせてはならない」という強いメッセージを感じる作品だなと思いました。
1幕は巧みな描写で猜疑心を持ちつつ幕間へ
1幕のお話は2つの軸に分かれます。
ひとつは、真風さん演じるロベルトが敵国(主にロシア)のスパイを見つけられるのか?という点。
もうひとつは、寿つかささん演じるミハイロフ公爵や、芹香斗亜さん演じるヘルマン、遥羽ららさん演じるアルマが擁するバレエ・カンパニーがどうなっていくのか?という点。
このカンパニーにニーナが入るわけですが、この2つが上手いこと絡み合っていき、謎や疑惑を残したまま幕間に入ります。
スパイ疑惑……誰も彼もが怪しい!?
ロベルトは瑠風輝さん演じるスイスのジャーナリスト(表向きの顔)エーリクと共に、ホテルに滞在している客の中からスパイでは?と思える人たちを調べていきます。
その中でロベルトのアンテナが立ったのが、先述したバレエ・カンパニーというわけですね。
これまでヨーロッパ各地で公演を行ってきたとはいうものの、公演を簡単に行えない国でも公演していること、音楽院を中退しているヘルマンであればわかるくらいに、ピアニストの腕が一級品ではないこと……など、「もしかして彼らの中にスパイがいるのでは?」と思わせるような疑惑の点が浮かんできます。
このあたりの描写は非常に巧みで、「そうじゃないといいんだけど……でも……」と、「信じたいけど100%信じられない」くらいのうさんくささが各人に漂っていました。
中でクリアなのはニーナと、カンパニーの振付師兼ダンサーであるユーリ(桜木みなとさん)くらいでしょうか。
ヘルマンに目星をつけて彼の電話に盗聴器を仕掛けたロベルト。結果、彼がスパイ行為をしていることが発覚します。
盗聴器デカすぎて、最初爆弾かとおもった
さらに上司の死の謎も追加されて…!?
さらに、ロベルトはスイスで意外な人物と再会します。
彼の敬愛していた上司、ネイサン(紫藤りゅうさん)の娘、エヴァ(小春乃さよさん)です。
ネイサンは非常に仕事ができる人間で、かつ正義感と愛国心にあふれていました。
しかし何かの間違いなのか、スパイ嫌疑をかけられて処刑されてしまったのです。
ロベルトはネイサンの嫌疑を晴らしたく、また真実を知りたいと思いエヴァに情報提供を求め、彼女も最初は今更真実を知ってどうするのかと反抗しますが、最終的には生まれてくる我が子のために、真実を求めることを決意します。
1幕では
- スイスにスパイ「ウィリアム・テル」がいること
- ヘルマンはナチスと繋がっていること
- ネイサンの死にはきっと理由があること
がわかった感じですね。
2幕は芸術の存続に関する熱いメッセージ
2幕は1幕で投げられた様々な謎が回収されてゆきます。
さらに、芸術がなくなっていくことに対する熱いメッセージも感じましたので、その点も書けたらと。
ヘルマンたちの本当の目的
2幕で非常に重要となるのは、ヘルマンたちです。
なぜスパイ行為を働いているのか?単純に敵国のスパイなのか?それを確かめるために、ロベルトは彼らが「何かをしようとしていた」ホテルのボールルームへ乗り込みます。
アルマに銃を向けられるも、自分が死んだところで結局追跡されて明るみにでることをロベルトが告げると、ヘルマンは諦めて真実を語りだし……。
時は過去、ヘルマンとアルマが音楽院にいたころ、稀有なピアノの才能を持つラディック(紫藤りゅうさん/2役)という友人がいました。
アルマはラディックを愛し、想いは通じ合っていたものの、かたやお嬢様、かたやユダヤ人ということでその愛は実らず……しかし、アルマはずっと彼を思い続けていたのです。
そんな中、各地でユダヤ人への迫害が始まり、彼らは身を隠さざるを得なくなります。
芸術をこよなく愛するミハイロフ公爵、そして旧友を救い出したいヘルマンとアルマは、バレエ・カンパニーとして各地を回る中、芸術に優れたユダヤ人を安全な土地へ逃がしていたのです。
そのためにスパイ行為をしていたのは事実ですが、国のためというわけではなく、友達を救いたい、そしてユダヤ人を救いたいという、彼らなりの芸術への愛と正義がそうさせていたのでした。
カンパニーの中でもそのことを知っているのは、彼らに加えてピアニストのアンリ(七生眞希さん)。
また、現在このカンパニーはアメリカの劇場から注目されており、今回の公演がよければアメリカに行けるチャンスでした。
そのため、ミハイロフ公爵たちはこのことを明るみに出すのは明日の公演が終わってからにしてほしい……と嘆願します。
本来ならば仕事には私情を挟まないロベルトですが、彼らはスパイというわけではなく、自分たちの手で芸術を護るため、友人を護るため、ユダヤ人を護るために動いていたことを知り、彼らの願いを聞き入れます。
なるほどね~!と思わせる展開
「おいおい、アナスタシアに続いてまたナチスなのぉ!?」と思っていましたが、真実を知ってなるほど!ですね。
ここでは触れていませんが、アルマに対して既婚ながら積極的にアプローチをしかけてくる紳士がおりまして、うまくあしらっているところから「結構異性関係が派手なのかしら?」と思っていました。
が、本当はラディック一筋!という一途なところのギャップがいいですね。
ヘルマンはずっとアルマを想っていたけれどそれは叶わず。
音楽院を中退したのも、アルマとラディックの幸せを邪魔したくないのと、嫉妬心が強くなってしまったからとのこと。
キキちゃんは、景子先生の作品では好きな人とは一緒になりきれないねえ……(ハンナもね)。
ウィリアム・テルは……?
同時に明かされるのが「ウィリアム・テル」の真実。
2幕からイギリスの情報部の偉い人のリチャード(美月悠さん)もホテルに来ており、ロベルトとヘルマンたちが話しているところに現れます。
当然スパイ行為をしているヘルマンたちを警察に引き渡さなければ!と主張しますが、そこにスイスでのバディ、エーリクが登場。
ネイサンの娘エヴァから遺品の時計を受け取ったロベルトは、エーリクに時計の解析を依頼していたのです。
その時計の中には1枚のメモがあり、「ウィリアム・テルは女性スパイで、リチャードと深い仲になり、彼が情報を流していた」という衝撃の事実が書かれていました。
そのことを知ったネイサンは口封じで殺されてしまったんですね。
また、すでにウィリアム・テルは死亡。リチャードもアッサリと降伏し、こちらは解決となりました。
怪しい!が案の定怪しかった
1幕から結構きな臭い動きをしているキャラクターでしたし、2幕でわざわざスイスにくるなんて怪しいわね……って感じだったんですが、案の定でしたね。
根っからの悪役!というよりは、自分を守るためにやったことを後悔している印象でした。
だからアッサリ降伏したのかな。
上質な芸術を亡くしてはならないという強い意思
バレエの公演は大成功し、カンパニーはアメリカへ。
スパイ行為をしていたヘルマンについては、二重スパイになれば協力者という名目で保護できるというロベルトの申し出があり、こちらも一件落着な感じです。
ここらへんもきっちりと描かれていてよき!なのですが、私が一番強くメッセージ性を感じたのは、芸術をなくしてはいけない!という強い意思。
そのへんのセリフとかはもう全部っていいほど忘れてしまったんですけれど、どんなに苦しくても芸術があることが大切……というような。
現状、舞台をはじめとする芸術は「不要不急」なものに該当されているのは確かなこと。
だけど本当はそうではなくて、それでないと解決できない、救えない何かがある。
この作品を通して、そう訴えかけてきているように感じました。
めっちゃ長くなってしまいましたね……!!
新トップコンビと潤花さんについて
この作品は宙組新トップコンビのプレお披露目公演ということもあるので、やっぱり並びが気になっちゃいますよね~。
まず、二人が並んだ感じは違和感なく。
潤花ちゃんが星風まどかちゃんよりも大人っぽいからか、彼女が就任した当時言われていた犯罪臭はないかなと思います(笑)。
というか、潤花ちゃんがめっちゃ大人っぽいですね。貫禄があるというか。
すでにトップ娘3年くらいしてるよね???
潤花ちゃんについて
潤花ちゃんの存在はもちろん知っていましたが、実はヒロイン作品の「PR Prince」と「ハリウッド・ゴシップ」をしっかり観たことがないんです。(録画はしてあるんですけど)
なので、しっかり彼女をチェックしたのは今回が初めて!という前提でお願いします。
ダンスは言うまでもありませんが、お芝居心がある方だなと思いました。お芝居好きなのかな?
声が低めで落ち着いているので聞き取りやすい点もよかったです。
お歌は色々と噂を聞いてはいたんですが(笑)、言うほどひどくはないような?って感じですね。
確かに上手カテゴリーではありませんが、まだ研6ですし……?
今後の努力次第でどうにでもなりそうかなと思いますね。
初々しさがないのが吉と出るか凶と出るか
思うのが、潤花ちゃんは非常に貫禄があって、初々しさが感じづらいことです。
私は娘役は初々しくあれ!とは思いません。それまでのキャリアであったり、学年であったりで変わってくるものだと考えています。
潤花ちゃんのどっしりした部分は若い学年であっても骨太な女性の役が似合う強みにもなりますし、全体的に大人っぽい雰囲気がある宙組にはマッチしているんじゃないかなと。
とはいえ、学年から見るとちょっと初々しいところもほしいなあと、ついつい思っちゃいますね。
同期のひっとん(舞空瞳さん)はあんだけプロっぽくても表情だったりところどころ初々しいところを出してくるのがうまいなと思うので。
ゆきちゃん(仙名彩世さん)もトップ娘に就任したのは研9でしたが、「Sante!!」のデュエットダンスなんかはめちゃくちゃ初々しい感じの表情を見せてくれていましたよね。ああいうのキュンキュンしちゃう……。
今後、ショーなどでそういう面を見せてくれるかもしれない!と期待しています。
芸術を改めて考えさせてくれる素敵な作品でした
今回は非常に長くなってしまいましたが……。
景子先生の繊細かつメッセージ性が強いこの作品、私にはとっても刺さりました。
特にいまこの時期、芸術の火を絶やさないように……と思う気持ちが強いからかもしれません。
今後どうなるかまだわかりませんが、また劇場の幕が開いた時には芸術の火を消さないように、微力ながらお手伝いしたい!と改めて決意させてくれる作品でした(もちろん配信でも応援するよ!)。
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